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愛すという行為3
「みじん切り、うまいんだな」
「これくらい誰でもできるよ〜」
「いやいや、できねーやつもいっぱいいるって」
「え〜」
姫野はくすくす笑いながらボウルに玉ねぎを流し入れた。俺はそれも一緒に混ぜる。
程なくして粘り気が出る。
「俺は姫野の作るな」
「……じゃあボクは蓮くんの?」
「そう」
ボウルの中から半分取る。姫野もおずおずと残りを取った。
二人でお互いの分を丸めていく。
好きな人には美味しいものを食べて欲しいよなぁ、と思いながらハンバーグの形にしていく。
ちらりと姫野の方を見ると、慣れた手つきだった。しかしどこか丁寧に見えたのは、俺の自惚れではないと願いたい。
「できたよ」
「俺も」
自然と笑顔を見せる姫野に俺も微笑み返す。
そのあとは、姫野がハンバーグを焼く係、俺はソースを作る係になって、それぞれコンロの前に立つ。
なんてことはない日常。それでいて温かな光景。
そんな風に姫野が感じられるようになったらいい。
目の前のデミグラスソースを混ぜながら、ふと思った。
「……と、ケチャップは……」
ケチャップは調理場の上に乗っていた。隣では姫野がハンバーグを焼いている。
俺は姫野の背中側からケチャップに手を伸ばした。
「……んっ」
一瞬、姫野の背に俺の腕が触れる。すると漏れ聞こえる艶めかしい声。
俺は少しの間だけ体を固めてしまう。
「……いい匂い、してきたねっ」
しかし姫野が些か慌てた様子で声を出す。
「だな〜ソースももうちょいで完成」
俺もそれに合わせた口調でいく。
そうして順調に料理は進められていった。
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