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愛すという行為5

俺が一口食べたところで、妙に視線を感じて顔を上げる。姫野は俺を見ていた。目線でどうした?と聞いてみる。 「美味しい……」 「うん。ありがとうな」 「違うの。今まで食べたことないくらい、美味しいの」 「姫野……」 姫野は不思議そうにハンバーグを見つめている。 俺は口を閉じて、それから微笑む。空いた手で姫野の頭をそっと撫でた。 「俺が作ったからだよ。姫野のために」 「……ボクのために、作ったから?」 「好きな人には美味しいもの食べて欲しいだろ。だから美味しくなるように考えながら作った。気持ちのこもったハンバーグってわけ」 「……好きな人に、美味しいもの……」 「俺のハンバーグもすごくうまいよ。姫野が作ってくれたから」 姫野は俺の作ったハンバーグに向けていた視線を、俺の方へ上げる。ぽかんと開けていた口は、じきに笑顔に変わった。 「うん。二人で食べてるから、もっと美味しいね」 満面の笑みで姫野がそう言う。 不意打ちの言葉は、とてつもなく可愛いと感じた。 俺は誤魔化すようにハンバーグを一口頬張った。

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