828 / 961
蜜夜7
瞼の外の明るさに目を開ける。開けたままだったカーテンの向こうで、太陽が少し顔を出している。
ぼんやりしたまなこでそれを見つめ、おもむろに視線をずらす。腕の中には姫野がいた。
さらさらの髪を撫でてみる。
愛しいという感情がふわりと浮かんでくる。
「……ん」
姫野が身じろいで、ゆっくり目を開ける。俺の胸元から顔へと視線を移した。
「おはよう、姫野」
「……おはよ、蓮くん……」
まだ眠そうな姫野の前髪を分けて、額にキスをする。姫野は表情を緩めると、甘えるように俺の胸に潜り込んだ。
俺は腕を回して姫野を閉じ込める。触れ合う素肌が心地いい。
「……あのね、蓮くん」
「んー?」
「ボク……彼氏みんなと、別れるね」
姫野はどこか不安そうな声でそう言った。顔を埋めてしまっているから、表情が見えない。
「蓮くんのおかげで……ちょっと、わかった気がするから……。これで、合ってる……?」
姫野は顔を上げなかった。
本当にわからないのだろう。愛というものも、恋というものも、きちんと経験してこられなかったのだから。
不安な姫野と反して、俺はじわじわと喜びが沸くのを感じる。
「合ってる。ありがとう」
「うわっ」
その喜びを思い切り腕に込めた。急に強く抱きしめられた姫野はびっくりしたようだ。
「んもうっ! 蓮くん、痛い!」
「嬉しいの」
俺の拘束から姫野は抜け出ると、キッと睨んできた。俺は笑いかける。
姫野は俺の言葉を受け止めると、じわりと頬を赤くした。照れる基準がわからない。しかしからかう理由には十分。
「姫野の決断、めちゃくちゃ嬉しい」
にやにやしながら放てば、姫野は唇をわなわな震わせる。
耐えきれなくなったのか、ベッドから立ち上がる。はらりとシーツが落ちて、滑らかな裸体が晒された。
「お風呂入って学校行く!」
裸を見られることは何も恥ずかしくないらしい。
俺はくすりと笑う。
「はいはい。一緒に行こうな」
「……うん!」
ともだちにシェアしよう!