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蜜夜9
「俺たち付き合うことになった」
改めて言うと少し照れる。
だが恥だとか嫌悪だとかはなかった。姫野への想いが本物だと感じられて、柄にもなく嬉しくなった。
隣の姫野は驚きと喜びと羞恥心を同居させている。前までの姫野だったら「そうなの!いいでしょー!」くらい言いそうなものだが。
昨日から状況も感情もめまぐるしく変わったし、まだ飲み込みきれていないのかもしれない。そこも可愛いから構わない。
「やっぱり。おめでとう」
みんなにも視線を向けたところで、間宮からそう言われる。
最初から俺らが付き合うことを知っていたみたいな顔だ。ちょっと悔しい。
「清水くん、あの……嬉しい。おめでとう」
「渡来……」
渡来は俺をうかがい見る。俺からの好意を知っていたのだから無理もない。その上で祝福してくれるのは、素直に嬉しかった。
俺が好きだった渡来。
今は大事な友人。
「ありがとな」
渡来に向かって笑えば、渡来も安心したように笑ってくれる。
穏やかな空気が流れ始めた時、俺の手が強く握られた。姫野は少し唇を尖らせている。
やれやれ、わがままなお姫様だ。
「姫野、」
「お!ま!え!ら〜!!」
「うわっ」
しかしその前に茂が俺ら二人に思い切り抱きついてきた。
俺の言葉をようやっとインプットして、感情が爆発したのだろう。だからこそかなり力が強い。
「特に姫野!」
「ちょっ、やだっ!苦しい!」
茂はあっさり俺を手放して姫野を抱きしめる。
よかった、よかったと全身で表現する茂。色々心配もかけたし、俺の後押しをしたのは茂だ。それは事実。
しかし事実と今の状況は別問題。
「茂、姫野は俺のだっつの」
「蓮くん……」
茂の拘束から姫野を助け出し、今度は俺が抱きしめる。姫野はキュンとしたように俺を見上げた。
「はいはい。第二の間宮夫婦になるな」
その空気を一瞬で消したのは轟だ。
「甘い空気出す人達増えた〜も〜」
「しかもおれたちが言うタイミングなくなったし」
小室と轟はどこか不満げに言ってきた。思わず吹き出してしまう。
昨日とは違うやりとり。でも普段と変わらないかのようなもの。それは尊くて、愛しくて、胸に幸福の感情が落ちた。
何より掌から伝わる熱が、とてつもなく幸福だった。
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