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ストーク・ストーキング6

「ごめんなさい」 とりあえず落ち着けるところにと、三人でカフェに入った。するとストーカー……いや、父?に深々と頭を下げられた。 「えっと……顔、上げてください」 そう言っておく。 父の話は母さんから殆ど聞いたことがない。掘り下げて聞くべきものでもないと思っていたし、そもそも気になる時期はもう過ぎた。 恐る恐る顔を上げた目の前の彼を見る。 「……あ、ぼく、齋藤俊樹と言います。麻里子の元夫で、亜樹の父です。……といっても、信じ難いですかね……」 しゅるしゅると縮んでいくようだ。 どこか親近感がわく。あまり怒るのも可哀想だなって、颯太を横目で見る。 「いや、信じます」 「……え?」 「……え?」 僕と彼の声が見事に重なった。颯太はくすりと笑う。 「顔、亜樹と似てますし。天然なところとか、怯え方とか、全体的に亜樹に似てます」 「……そうなの?」 「うん」 「……あ、ありがとうございます」 顔は確かに僕に似てる気がするけど、雰囲気もそこまで似ているだろうか。颯太から見ると僕はこんな感じとか。 目線をそっと上げて、彼──父を見る。 ばっちり視線が合ってしまった。父はへにゃっと嬉しそうに笑んだ。 「でもストーカーした理由は聞かせてもらいますよ」 颯太がコーヒーをスプーンでゆっくりかき混ぜる。カチャッ……と、スプーンを置く音が空気を引き締めた。

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