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ストーク・ストーキング7

父はピクッと体を震わせ、真面目な顔つきになった。 「……端的に言ってしまえば、亜樹に会えたのが嬉しかったんです」 「嬉しかった?」 父は僕を見る。その瞳に宿る光は常に変わらない。 僕に対する愛情、だと思う。きっとずっと向けられていた視線には、この感情が宿っていた。 父はすぐに僕から颯太へと視線を移した。 「麻里子と別れてから、亜樹と会うことは一度もありませんでした。だから亜樹に再会できたことが嬉しくて」 「……どうやって亜樹のこと、見つけたんですか?」 「たまたま前の家、今の亜樹の家ですね。その近くを通った日があって、そしたらそこから亜樹が出てきたんです」 その日を思い出すかのように父は遠くを見る。ふわりと微笑む様は空気を緩ませる。 正直言ってしまうと、僕はその日のことを思い出せないけれど……。 「一目で息子だってわかりました。その偶然の奇跡に、とても感動してしまって……」 「あとをつけてしまったと」 「……はい。すみません」 父はまた深々と頭を下げた。 ストーカーのスの字も当てはまらない態度だ。だってこの行為には親としての愛情しかないんだから。 「いけないこととはわかっていましたが、亜樹が可愛くて、愛しくて、繰り返してしまいました」 「写真はどうして?」 「……思い出を形にしたかったと言いますか……。亜樹の姿を目以外にも焼き付けたかったんです」 「なら声をかけてみればよかったのでは?」 「今ではそう思います。でも色々と……」 「まあ、そうですよね……」 颯太は使い続けた口を休ませるようにふぅと息を吐き出した。僕は横で小さく頷く。 急に話しかけるのはリスクが大きすぎる。普通に不審者だと思われるし、父と告げても信じるわけはない。 僕と似ているなら、話しかけることは諦めるに決まっている。何も考えず夢中で始めてしまったんだろうなぁと思う。それでやり始めてしまったら、やめるきっかけを見つけられないことも想像がつく。

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