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ストーク・ストーキング8

「……詳しい説明、ありがとうございました。危険な方ではないとわかって、安心しました」 「いえ……あの、こちらこそ、ありがとうございます。こんな不審者を信じてくださって……」 颯太が初めて微笑んで、父も安心したように笑う。よかったなぁ……と素直に思う。 だからちょっと嫉妬してしまったことは内緒。 「……すみません。ちょっとお手洗いに」 「あっ、はい」 颯太は父に気づかれない程度に僕の手に触れる。 わざと二人きりにしてくれたみたいだ。やっぱり颯太は僕のことばかり考えてくれている。 でも何を話せばいいのかは、わからないけれど。 颯太が完全にその場から消える。そっと視線を上げる。父も僕を見ていて、ふにゃりと笑った。 「いいお友達を持ってるんだね」 「えっ……あ……」 「亜樹のために、ぼくを捕まえたんだろう?」 「……はい。相談したら、協力してくれて」 急に砕けた口調になって驚いてしまう。父なのだから当たり前と言えば当たり前だけど。 それから『お友達』って言葉。 わかってる。はたから見れば僕と颯太は友人だ。でもそう思われるのは、やっぱり悲しい。 でも息子が男と付き合ってるって知ったら、どう思うだろう。 「仲良い?」 「はい。いつも仲良くしてくれて、とても素敵な……人です……」 「そうなんだ。亜樹に仲良しのお友達がいるの、嬉しいよ。安心する」 「そう、なんですね。ありがとうございます」 父として息子のことを心配してくれているのは痛いほど伝わってくる。成長を喜んでくれているのも、話せることを嬉しがっているのも。 言いたい。颯太は友人じゃない、付き合ってるって。 膝の上でぎゅっと手を握る。 言えない。唇が震える。 「……亜樹」 父の静かな声が聞こえて、視線を上げる。父は何か言いたそうで、迷っているようで。 小さく揺れた瞳はゆっくり瞬きをした。 「連絡先交換しようよ」 「……あ、ぜひ」 父がスマホを取り出す。僕も慌てて取り出して、連絡先を教えあう。 「お待たせ」 「……颯太」 そこはちょうど颯太が帰ってきた。 「連絡先?」 「うん」 「いいね」 颯太はいつもの笑顔で話しかけてくれる。僕もぎこちなく微笑んだ。

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