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フラッシュ1
父と別れたあと、僕と颯太は久志さんのお店に行った。かなり久々だ。
「いらっしゃ……亜樹ちゃんと颯太か」
グラスを静かに拭いていた久志さんは、口元を緩ませる。
僕と颯太がカウンター席に並んで座ると、すぐに飲み物を出してくれる。
グラスを回す。匂いも色もたぶん普通だ。お酒じゃない。
「それでどうだった?」
「それがさあ、ストーカーって亜樹の父親だったの」
颯太はグラスを握る。カラッと氷が音をたてた。
「父親? まじかよ、なんだそれ」
「突拍子もないよねー。久々に再会した息子に感動したんだって」
「本当に父親なんだろうな?」
「それは間違いない。絶対に亜樹の父親」
「どっからくんだよその自信」
僕は二人の会話をじっと聞きながら、ゆっくり飲み物を含む。カルピスだった。甘い味。
冷えた飲み物は心臓を冷やすようだ。秋の空気には少し冷たい。
「何から何までそっくりなの。性格とか見た目とか仕草とか」
「へぇ。見てみたいもんだな」
「手出すなよ、おっさん」
「出すわけねぇだろ」
久志さんがけっと息を吐く。そんな無節操じゃないと言いたげな顔だ。
相変わらずだなぁと思っていたら、そっと腰を抱かれた。
「まあ、一番可愛いのは亜樹だけど」
「……ん」
颯太は僕の顔を覗き込んでキスをする。驚いた僕は颯太を真っ向から見つめてしまう。
その視線に心配の色が走った。
「どうしたの? 亜樹」
「えっ……」
「ごめん。今日は帰るね」
僕が返事と言う返事を返す前に颯太が僕の手を取る。
「色々あったもんな。ゆっくり休めよ」
颯太に手を引かれて立つ僕。久志さんは優しく笑って頭を撫でてきた。仄かな質量が僕の髪の毛を押す。心地いい温度が伝わってきた。
「じゃね」
「おう」
「あっ……さよなら」
あれよと言う間に颯太に連れ出され、僕と颯太は夜の中に入り込む。
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