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フラッシュ5
おもむろに父はカメラを覗いて、パシャッと一枚撮る。宝物を見せるかのように、僕に画面を見せてくれた。
いちょうの葉が舞う中で、子供が駆け、それを親が見守る。素敵な切り取りだった。
「前から思ってましたが、写真撮るの好きなんですね」
「うん。写真家だからね」
「えっ! そうだったんですか?」
「うん」
事も無げに言うから、以前聞かされたっけと不安になる。だがそんなこと言われたら絶対に覚えているはずだ。
「ああ、ごめんね。言うの忘れてた……ううん、避けてた、かな」
父は微笑んでゆっくり歩き出した。
雰囲気や声音が少し硬くなる。
颯太の言う通り、二人きりの時間を作って、よかった。話したいことがあるから、呼び出したのだろう。
「亜樹はなんで僕が麻里子と別れたか……知ってる?」
「聞いたことないです……」
「そうだよね」
父はまた笑う。
そこには自嘲も混じっている気がした。僕を見ることはない。
「さっきも言ったけどぼく、写真家でさ。でも当時は今より全然収入が少なくて。……言ってしまえば、夢を追いかけている状態っていうか」
写真家とか、そういう類の夢は、厳しいというイメージがある。本当に限られた人しか成功することはないと。
心臓の鼓動が早まりだす。父以上に緊張している気がする。
きゅっと唇を噛んで、上げた視線は赤を捉える。もみじ。
今は見たくないくらい、鮮やかな赤色。
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