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フラッシュ7
「麻里子にも見透かされていた気がする。麻里子と亜樹を支えきる自信も、麻里子の信頼を受けて進む勇気も、何もかも持っていなかった。だから……手放した」
父はカメラを離す。
僕に手を伸ばし、その指先は丸まった。でも結局ぼくの頭に触れ、するりと輪郭をなぞっておりていった。
「情けない父親だよね。こうやって息子に弁明しちゃうなんて」
僕の頭を撫でた手を父はぎゅっと握った。風が吹いて、僕と父の間にもみじの葉が舞う。
母と父の過去。関係。
僕は知ることができて、嬉しい。
不快だとか、生々しさに怖気付くとか、父を恥じるとか、そういうことは一切なくて。
足を止める。ふっと息を吸う。
「な、情けなくなんか、ないです……!」
気合いを入れたら思ったより大きな声が出てしまう。ちょっと声も裏返ったし。
父は目を丸くしている。
でも羞恥をかまっている暇はない。
「こうやって話すの、弁明じゃないと思います……!だって、話すことにも、勇気はいりますし……それに僕、両親のこと知って、嬉しいです……」
「亜樹……」
「それに、それに僕、今、幸せだからっ……」
夢中で続けていた言葉。
ふわりと颯太の顔が浮かんだ。
そうだ、僕、幸せだ。今、すごく幸せなんだ。
辛いことも色々あったし、これから色々あるだろうに、生まれてよかったって思えている。颯太のおかげで、生きるのが、幸せなんだ。
「……だから、ありがとうございます。母さんと出会ってくれて。僕にこんな幸せ与えてくれる人、情けなくなんかないです」
今出来る精一杯の笑顔を見せた。
図らずも、泣きそうだった。
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