848 / 961

フラッシュ10

「ん〜、もうこんな時間か」 父がゆるりと伸びをして、それから腕時計を見る。あたりは薄っすら暗くなっていた。 僕のことについて話したり、そこから派生したり、恥ずかしい時もあったけど、とても楽しかった。 「そろそろ帰ったほうがいいかな」 「そうですね」 「今日は二人ともありがとう。色々聞けて楽しかったよ」 父がベンチから立ち上がるのに合わせ、僕も颯太も立つ。 地面のいちょうがカサッと音を立てた。つられて下に目線を向ければ、黄色にいくつか混じる赤が見つかった。 「ねえ、最後に二人の写真、撮ってもいい?」 「写真……ですか?」 父の声に顔を上げる。父は僕らに一眼レフを持って見せる。僕は首を傾げる。 「本当に二人は仲良いし、信頼しあってるみたいだから……ぼくも嬉しくて。それを残しておきたいなぁって」 「照れちゃいますけど、どうぞ」 「ありがとう」 颯太が微笑んで僕と並ぶ。 そっと肩に手を回されてドキドキする。 大丈夫だろうか。距離が近すぎやしないか。でも颯太は一貫して、父に対して恋人同士とばらす気は無いという態度を取っていた。 だから多分この手も変には見えないのだろう。友人同士でも肩に手を回すくらい、するのだと思う。 「じゃあ撮るよー」 父も当たり前のようにレンズを覗く。やはり大丈夫そうだ。 颯太と一緒にピースを指で作る。父の「はいチーズ」に合わせて笑った。パシャッと一枚、写真が撮られる。 「二人ともいい笑顔」 父は僕と颯太に撮れた写真を見せてくれる。 美しい公園を背景にした綺麗な記念写真だった。写真家なだけあって、写真の撮り方はやはりとてもうまい気がする。 「とても素敵な写真ですね。素人が撮るものと全然違う」 「ありがとう。一応は写真家だからね」 颯太の言葉に父はへらりと笑う。 そして大切そうに一眼レフの電源を切った。

ともだちにシェアしよう!