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フラッシュ11

「じゃあ、本当にお開きにしようか」 父は一眼レフを首に下げ、僕と颯太に向き直る。 「二人とも、じゃあね」 「はい。またいつか」 「さようなら」 父は颯太と僕の言葉にまた笑って、 「もっと立派になってからまた会いに行くね」 付け足すようにそう言った。 そしてその身を翻す。 赤と黄を散らしながら、静かに去っていく父。しばらく会えない、そんな予感がした。きっと父は、そのつもりな気がする。 「……あの!」 「ん?」 そう思ったら思わず、引き止めてしまった。 僕は何を言いたいのだろう。何を言いたくて、引き止めたのだろう。 素早く思考を巡らせて、すぐに答えにたどり着く。 ちらっと颯太を見上げた。颯太は不思議そうに、でも嬉しそうに、僕を見つめ返す。 僕は決意を固めて父を見た。 「その、僕……颯太と、友達じゃないんです」 「……そうなの?」 バクバクと心臓がうるさい。父の顔を見られなくて、胸元あたりを見つめてしまう。 でも、言わなきゃ。きっと今言わなきゃ、後悔する。今しかチャンスはない。 父だから。父だからこそ、言いづらい。でも父だからこそ、伝えたいんだ。 「はい。僕と颯太は……恋人なんです。付き合ってます」 唇を噛みしめる。言ってしまった。 後悔はない。けれど緊張と、高揚と、恐怖と。感情が僕の中で乱れる。 恐る恐る父の顔を見ると、父は目を丸くして固まっていた。 ああ、気持ち悪いって、思ったかな。それで颯太が嫌われたら、いやだな。 防衛反応かのように、僕の心に諦めが生まれた。 そんな時、颯太がそっと僕の手に触れる。握り締められた指を、するりと解いてくれた。 父は僕らの手に視線を移し、また僕らに戻した。

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