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フラッシュ12
「そうだったんだぁ」
次に聞こえてきたのは、間の抜けた父の声だった。
「やたら仲良かったのはそういうことだったんだね。いやぁ、亜樹、素敵な相手を捕まえたんだね」
「えっ、と……」
あっさり受け入れられてしまって、僕の心は事実に追いつかない。
穏やかで寛容そうな雰囲気とは思っていたけれど、それにしたって意外だった。
「お互いがお互いを好きならいいと思うよ。亜樹も颯太くんもお互いのこと、好きでしょ?」
「俺は大好きです、亜樹のこと。大切にします」
「うんうん。亜樹は?」
「僕は……」
迷いなく言い切ってしまった颯太に嬉しくなる。けれど同時にとても恥ずかしかった。今更だけれど、絡む指も、恥ずかしく思えてくる。
だけど颯太に対する想いは、一つしかない。
「僕も、颯太が好きです。ずっと一緒にいたい」
「うん。なら何も問題はないね。亜樹が大事な人を見つけられて、ぼくは嬉しい」
父は頷きながらまた嬉しいという言葉を放った。
父がよく言う嬉しいと言う言葉。僕のことを思って、僕の立場に立って、考えてくれている。その上で僕を祝福してくれている。
幸せで、泣きそうだ。
「亜樹も颯太くんも、末永くお幸せにね」
父は僕の頭をポンポンとたたいて、改めて背を向けた。ゆっくり去っていく父の背を僕は見つめる。
「ありがとう、亜樹」
「……へ?」
「勇気出してくれて。すごく嬉しい」
父が完全に見えなくなった頃、颯太が僕に向かって言った。滲む笑顔を抑えきれなさそうにして、颯太は僕の頬を指先で撫でた。
その感触が心地よくて、無意識にすり寄せる。
「早く帰ろっか」
「え?どうして?」
今の穏やかで甘い空気はどこへ行ったのか。
不思議に思う僕の腕を颯太が掴む。
「亜樹が可愛すぎるから、抱き潰そうと思って」
「……なっ」
カァッと頬が熱くなる。
ニヤッと笑う颯太を見て、本気だと悟る。朝まで寝かせてもらえないんだろう。
でもそれすらも幸せに感じるのだから、仕方ないなぁと思った。
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