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たかちゃんの受難4

五時間目は体育だった。 運がいいのか悪いのか、最近の競技種目はテニス。普通に楽しいが、今の状況だと。 「じゃあまあ、打ち方は実際に見てみるか。轟、小室」 松田先生がちょいちょいと俺らを手招きする。 やはり来ると思った。体育で恒例の経験者に手本をさせるやつ。サッカーだと松村や清水がやっていたし、そりゃ俺たちにも来る。 俺と凛は前に出る。 自分のラケットを手で回しながら、凛と対峙した。事情を知っている面々からすれば、さながら対決にでも見えるのだろうか。 「じゃあやってもらえるか?まずサーブ見せてくれ」 「はい」 松田先生からボールを渡される。言われた通りにサーブをした。凛は難なく打ち返して、ボールは俺の元に戻ってくる。 「こんな感じだ。あとでまとめて練習時間とるからな。じゃあ轟がサーブして、小室がフォアハンドで打ち返してくれ」 「はい」 「はーい」 俺はまた同じようにサーブを打った。凛は何を思ったか、大きく外れて打ち返してきた。 俺はラケットを伸ばしてなんとかボールを止める。 「おお、なんだ。力んだのかー?」 「すみませ〜ん」 松田先生がけらけら笑う中、俺は凛に口パクで『下手くそ』と伝える。 凛はむっとして『うるさい、ばーか』と返してきた。 大方俺への嫌がらせだろう。いや、人前が苦手だから本当に力んだのかもしれない。 「じゃあ次は〜……」 凛と対峙したまま、俺は松田先生の指示をこなしていった。

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