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たかちゃんの受難7

いつも通りに家を出る。 あの日、凛を怪我させたが、そんなことでは仲直りをしなかった。あれからもずっと凛とは冷戦状態だ。 凛は早めの時間に出て、俺はいつも通りの時間に出る。これがもはや定着してきてしまうくらいには、喧嘩が終わらない。 もはやお互い意地なのかもしれない。絶対に謝ってやるものか、悪いのは向こうだ、と。 怒りはもはやないと言ってもいい。きっかけさえあれば元に戻れる気がする。 「あっ、隆司!」 「んー? あ、おはよー」 歩き始めようとしたら、向かいの家から女性が飛び出してくる。凛の母親のたまきさんだ。珍しく家にいるらしい。 「おはよ! 凛、箸忘れていったの!」 「えー……」 たまきさんは当たり前のように俺に箸を渡す。つい文句を言えば睨まれた。 母さんもたまきさんも似てる。勢いがすごい。 「喧嘩してんだかなんだか知らないけど、届けるくらいしなさい」 「わかったって」 「あと早く仲直りもしなさい」 「それは俺らの勝手だろ」 「凛が寂しそうで私も寂しいの!」 噛み付くように言われた言葉に、思わず顔をしかめる。朝から耳が殺られる。 そもそも理由がおかしい。 凛が寂しそうだから……凛が寂しそうだから? 俺と喧嘩して寂しがってるのか? 「隆司、へーんーじ!」 「へーいへい」 思考はたまきさんの声に遮られる。俺は適当に返事しながら歩き出した。 嬉しかったとか、断じて思っていない。

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