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たかちゃんの受難9

「なになにー!喧嘩!?」 声を聞きつけたのか、松村が席まで飛んでくる。後ろからやってきた清水がすかさずうるさいと怒っていた。 松村が俺らを見てキラキラと瞳を輝かせている。欲望に正直すぎる瞳だ。 「最近、お前ら険悪だよな!」 「いったい何があったんだよ」 清水が呆れたように聞いてくる。その瞳はどうせ痴話喧嘩だろと言っているように見える。 「凛が悪い」 「たかちゃんが悪い」 「仲良しかー!」 同時に言った俺と凛。松村が楽しそうに声を上げた。 今は仲良しではないし、声が重なったのは恥ずいし。俺はますます意地を募らせていく。 別にもう許したっていいが、凛がその気なら俺は応戦する。 この返答じゃ寂しげな様子なんてうかがえやしない。たまきさんの勘違いじゃないんだろうか。 「俺は、なに、があったか聞いてんだけど。まあその様子ならお互い謝って終わりでいいだろ」 「清水くんもそう思う? 俺もずーっとそれ思ってた」 「お前ら夫婦は完全巻き込まれてるもんなぁ」 「本当だよね、あーき」 「えっ、えっと、その……」 清水と間宮は好き勝手会話をしているし、渡来は夫婦という言葉に顔を赤くしている。 でもちらりと俺と凛を見てきた。 「でも、その……話し合ってみたらどうかな? きっと二人ともすれ違ってるだけだよ」 渡来は優しげ目を細め、ふわりと微笑んだ。 渡来だけは俺らの喧嘩を真面目に受け取っている。優しいやつだ。 「おれはたかちゃんと話すことなんてない」 そんな温かさに感動したのも束の間。意地っ張りな凛の声が聞こえてくる。 「俺だってねーよ」 俺が凛を見ると、凛は目の下を指で引き、舌を見せてくる。所謂あっかんべーだ。俺も俺で舌を出してやり返してやった。

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