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りすと思い出1
結局昼休みにたしなめられても、俺も凛も互いに謝ることはなかった。だから今日の帰り道も一人だ。
わざわざ別の道を使うか、時間をずらすかして、一人で帰る放課後。慣れない一人の帰り道。
こうやって一人でいると、喧嘩しているのがアホらしく思えてくる。
本当は話し合えばすぐ解決するってわかっている。俺にだって悪い部分はあったし、凛にだってあった。
制服のポケットを漁って、中身を取り出す。
薄汚れたりすのぬいぐるみ。
今回の喧嘩の発端だ。
あの日凛の部屋を追い出されてから、ゴミステーションのゴミを漁って見つけ出した。
「なんだって凛はこんなもん……」
掌でりすを揺らしながらひとりごちてみる。
何かしら思い出があるのだろう。それ以外に大事にする理由は思いつかない。だがどういう思い出だろうか。
誰か大切な人にもらったとか、自分でお金を貯めて買ったものとか。
そういうことしか俺には思いつかない。もし前者だったら、誰にもらったのか全力で問いたいところだ。そんなに大事な人なら是非会わせてほしい。
「心せま……」
本当にアホらしい。
凛のことがこんなに好きなくせに、小さな意地で謝れない。
小さい頃から一緒で、ずっと守ってやりたい存在で。自分の想いは最低だと凹んだ時もあった。凛でしか抜けないと気づいて、悩んだ時もあった。それでも今は両想いだ。
それなのにこんな小さなことですれ違うのか。
「謝るかなぁ」
俺はちょっと決意して、家へ続く門を開けた。
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