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焦慮の青4
「亜樹、できたよ〜」
「うん。でも、あと少し……」
颯太が部屋に入ってきて知らせてくれる。僕はテキストから視線を上げずに答えた。
「もう、悪い癖だよ」
「あっ……」
颯太は僕の手に自身のを重ねる。颯太の手は驚くほど熱かった。思わず、振り払いたくなるほどに。
「……ごめん、でも」
「詰め込みすぎてもダメだよ」
「だって……」
「亜樹」
咎めるように名前を呼ばれて顔を上げる。颯太はわざと険しい顔をしていた。加減がわからなくなってしまう僕のための、颯太の表情。
どうして颯太はそんなに余裕があるのだろう。
それは颯太が頭がいいから。
「……わかんないよ」
「え?」
「颯太にはわかんないよ」
「何が?」
唇がふるりと震える。痛いくらいに心臓は鳴っている。
体内の焦りが目元に集まる。
「やってもやっても伸びない成績なんて、颯太にはわかんない。だって頭いいもん。天才だもん。焦る必要なんかないんだよね」
「……亜樹……」
「帰る」
手元のものをざっとまとめてリュックに突っ込む。颯太の横をすり抜けて玄関に向かった。
颯太の料理の香りが鼻腔を通り抜けた。
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