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焦慮の青5
颯太の家のドアがバタンと閉まる。呼応するかのように涙がこぼれた。
やっちゃった。
一番やりたくなかったこと。やっちゃいけなかったこと。
腕でぐしぐしと涙を拭いながら歩く。
『天才』だなんて、一番使ってはいけなかった。颯太のトラウマをえぐるような言葉を使ってしまった。
颯太は何も悪くないのに。僕が感情のコントロールが下手くそなせいなのに。
どうしてこうやってすぐ失敗してしまうのだろう。
「……颯太」
好きだよ。
好きなのに、うまくいかない。
もう一緒にいられる時間も、少ないのに。
鼻をすすって顔を上げる。空にはもう星が散っていて、近くに満月が座していた。雲が流れ、時々満月を覆い隠す。
ああ、まるで出会った時みたいだ。
あの奇跡のような満月の日。
颯太と出会えたかけがえのない日。
「……行かなきゃ」
不意に言葉がこぼれる。
そうだ。行かなければいけない。
なぜ帰り道を辿ってるのだろう。颯太が追ってきてくれるとでも思ったのか。ふざけてる。
自分が傷つけたのだから、自分で謝るしかないじゃないか。
残された少ない時間を、喧嘩で無為に消費したくない。
僕は身を翻した。
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