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成果の行方4

颯太は僕の手を引いてどんどんひと気のない方へ向かう。迷っちゃうんじゃないかってくらいぐちゃぐちゃ進んだ先で颯太はやっと足を止めた。 そこは薄暗くて、椅子が二脚だけある場所だった。 「試験始まるまで、二人きりになろ」 「颯太……」 颯太はいたずらっぽく笑って僕を椅子に座らせる。向かいに座った颯太は僕の両手を取った。 「亜樹の手、冷たいね」 「外寒かった……でも颯太の手、温かいね」 僕は颯太の指に自分の指を絡めた。颯太の手はまるでホッカイロみたいに温かくて、僕の体温と混ざり合うととけちゃいそうだ。 幸せだった。 自然と微笑むことができて、颯太を見る。 「……俺が温めてあげる、ずっと……」 「……あ」 「ごめん」 颯太は泣きそうに笑って僕を抱きしめた。 「センター終わったら、いよいよあっという間なんだろうなって、考えちゃって」 「割り切っても、難しいよね」 「本当に。この感情を思い切りぶつけてセンター最高点出すしかないわ」 「なにそれ」 合格を目指すたびに。 勉強するたびに。 試験を受けるたびに。 日々を過ごすたびに。 颯太との別れは一歩ずつ近づいて。 お互いがそれを実感していて。 今更振り返ることはないけれど、それでも感情は別物だ。一緒にいたい気持ちは、変わらないんだ。 僕と颯太は強く抱き合った。 二つの指輪が服越しに重なった気がした。

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