892 / 961
成果の行方9
『今、新幹線待ってるくらい?』
「うん。あと十分」
『そっか。今日、頑張ってね。亜樹なら大丈夫』
「ありがとう、嬉しい……」
緊張はそれなりにしている。今日で決まってしまうんだから当然だ。
慣れない新幹線に、慣れない土地に向かうことだって、緊張の要因になる。
でも颯太の声を聞いただけで、胸が温かいものでいっぱいになる。本当に不思議。
『一人で現地まで行ける?』
「なっ、い、行けるもん」
『俺が連れていってあげたい』
「……、だめだよ。颯太は明日本番でしょ」
『そうなんだよね〜。だから勉強中〜』
勉強中にわざわざかけてくれたんだと更に嬉しくなる。
颯太との別れに向かう新幹線も、今の僕なら受け入れることができる。
嬉しさ、寂しさ、辛さ、幸せ。自分のいっぱいの感情も全部受け入れるんだ。
「颯太のお陰で元気出た。絶対受かる」
『おお、強気。じゃあ頑張れたらご褒美ね』
「ご褒美?」
『俺とたくさんデートができる券』
「それ颯太にとってもご褒美じゃん」
『あ、バレた?』
思わず吹き出して笑ってしまう。電話越しにも笑い声が聞こえてきた。
颯太と約束している。二人の二次試験が終わったら、一緒にいっぱい過ごそうって。
別れは近いけど、幸福な日々も近い。
楽しみだ。
「……あ、新幹線きた」
『そう。じゃあ、切るね。頑張って』
「うん、ありがとう。頑張る」
『……うん。またね』
「ばいばい」
ぷつりと電話を切る。スマホをポケットにしまったところで、新幹線はホームに止まった。
ドアが左右に開く。僕は椅子から立ち上がる。
車内に一歩、踏み出した。
ともだちにシェアしよう!