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卒業2

「……颯太」 「ちょっと待って、まだ顔あげちゃだめ」 「どうして?」 キスしたい、って思ったのに。 顔を上げようとしたら頭を押さえられた。さらさらと颯太の大きい手が僕の頭を撫でる。 「顔のニヤつきがおさまらないから」 「えっ、見たい」 「ダメだってば」 「見る」 「こら」 僕は颯太の手から逃れようと身をよじる。颯太はより強く僕を抱きしめてきて、いよいよ動けなくなった。 でも颯太が嬉しさを抑えきれない顔なんて珍しすぎる。見たい。すごく見たい。 「ずるい」 「だらしない顔だから」 「……したいのに」 ふてくされた声を出したら、頭にキスが降ってきた。 お見通しなことはお見通しだけど。そこじゃない。僕は怒っているのに。颯太は余裕で、楽しそうで、嬉しそうだ。 「遅刻しそうだから行こっか」 「え」 颯太はやっと僕の体を解放する。急いで顔を上げても、颯太は既に普通の表情だ。柔らかく微笑んでいるだけ。 惜しいことをしたと思っていたら、ちゅっと唇を奪われる。 「あとでもっとしようね」 「……う、うん」 妖艶に笑む颯太。 かっこいい。 染まる頬を隠すように僕は頷いた。

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