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精一杯の感謝2
「あった!」
「俺も!」
僕は颯太を見る。
颯太は僕を見る。
ぴったり同時に目が合って、僕も颯太もスマホを投げ出して、互いに抱きついた。
「うぁ〜よかった……」
「怖かった……」
「ねー……」
床に投げ出されたスマホが光る。
僕と颯太はそんなの気にせず互いの肩に顔を埋めた。
別れが確定した未来より、今は受かった事実が嬉しかった。長い長い戦いを終え、僕と颯太は一番安心する場所で息をつく。
颯太の重みと温かさが肩から伝わってくる。腕に力を入れると、逞しい身体の筋肉が感じられた。
「おめでとさん、二人とも」
「ひゃあっ」
つつっと尻から首にかけてをなぞられて思わず体を跳ねさせる。
振り向けば案の定、久志さんだった。そういえばお店の定休日だ。
気を使って今まで出てこなかったのかもしれない。
「亜樹にセクハラすんな、変態おやじー」
「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」
「定番のセリフじゃん」
颯太が僕の体をさらに引き寄せながら小言を言い合う。笑うタイミングは二人同時だった。
「めでたい日だから特別に料理を振舞ってやる」
「わーありがとうーございますー」
「棒読みやめろ」
「えっ、嬉しいです。ありがとうございます」
「亜樹ちゃんは天使だな」
ポンポンと久志さんは僕の頭を撫でて、キッチンにその姿を消した。
「楽しみだね、久志さんのご飯」
「楽しみだけど、ずっと抱き合ってたい」
「……離れられなくなるから、だめ」
「いや逆効果」
「んぅ」
無理やり唇を奪われる。貪られながら、キッチンの音を聞いていた。
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