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精一杯の感謝3
「いやあ、めでたいから作りすぎちまった」
「わっ、わぁ、すごい」
目の前のダイニングテーブルにそれは豪勢な料理が並んでいた。
豆を使ったお洒落なサラダに、メインはステーキだ。タレは三種類くらいある。その横にはフランスパンと丸い白いパンがある。スープはミネストローネ。しかもデザートにティラミスがあるし、そのほかつまめるような料理も並ぶ。
三人前の料理でテーブルがいっぱいだ。
「こんな豪華なの久しぶり」
「しかも見た目すごく綺麗……」
「二人が合格って思ったらついな」
僕も颯太も料理に見惚れながら椅子に腰掛ける。
いくら作り慣れているとはいえ、こんなにたくさん作るなんて大変に決まっている。それなのに颯太と、それから僕のために作ってくれた。
「いただきます」
「いただきます」
「おう」
手を合わせてから、僕はまずサラダをいただく。シーザードレッシングとレタス、豆の味わいが絶妙だ。
「美味しいです、とても」
「よかった」
「ステーキも美味しいよ」
「おう。たくさん食べろよ」
颯太も今ばかりは素直な笑顔だ。そんな僕らに久志さんは嬉しそう。まるで子の成長を喜ぶかのように目を細め、夢中で頬張る僕らを見つめていた。
色々ありすぎて目移りしてしまう。次はどれにしよう。まるでバイキングみたいだ。
「ん?なんかスマホ鳴ってねぇか?」
「へ?」
瞳を輝かせていたら、久志さんが一言。僕も耳をすませてみる。確かにバイブ音が聞こえた。しかもこれは颯太のじゃなくて僕の。
慌ててソファの方へ行く。投げ出したままのスマホを手に取る。
母さんだ。
「はい、もしもし」
『亜樹、今大丈夫?』
「僕は平気。母さんこそ平気なの?」
『全然平気』
電話越しに母さんの声。向こう側が少しざわついているから、まだ会社なのだろう。
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