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精一杯の感謝4

『合格、おめでとう。ネット見たのよ』 「えっ、ありがとう……」 『嬉しくて居ても立っても居られなくて。つい電話しちゃったわ』 母さんは恥ずかしそうに笑う。その声は弾んでいて、本当に思わずかけてしまったという感じだ。 仕事が忙しいだろうに、わざわざ電話で直接言ってくれるなんて、本当に嬉しい。 『今まで母親らしいこと全然してあげられなかったのに、亜樹は親孝行な子ね』 「そんなこと……母さんこそいつも僕のために働いてくれてるし、僕の志望校も認めてくれた……」 『親が子を応援するなんて当たり前じゃない。ちょっと離れちゃうのは寂しいけどね』 「うん……ごめん……」 『そこはありがとうでしょ』 咎められて慌てて「ありがとう」と言いなおす。 一人暮らし。それは家から出て行くということだ。母さんから離れることになるし、生活費の面とかさらに負担をかける。 でも、ありがとうって、言っていいんだ。 『今もしかして颯太くんの家?』 「うん。颯太も合格してたって」 『……そう』 僕の何気ない言葉に、母さんの声は沈んだ気がする。多分僕の気のせいじゃない。 『……亜樹』 「なに?」 『たくさんおめでとうって、ありがとうって、言うのよ』 「……。うん」 ほろりと涙が流れた。 母さんの言葉が温かくて、一番心を突いてくる言葉で。 『じゃあもう切るわね。仕事戻らなきゃ』 「うん、わざわざありがとう」 『いいえ。じゃあね』 「じゃあね」 泣いているのが恥ずかしくて一生懸命隠そうとしたけど、多分全部バレているんだろう。 ぷつっと途切れたスマホ。真っ暗な画面。 部屋の片隅で僕は目元を拭う。 そして食事を続ける颯太と久志さんのもとへ戻った。 「お母さん?」 颯太が僕に問うてくる。答えなきゃって、思った。 でもその顔を見て、安心しちゃって。それから好きだなって、愛しいなって、僕が合格できたのは、颯太のおかげなんだって……。 なんだか色々な思いが溢れかえってしまった。 「……そう、た……」 「なに?甘えん坊だね、可愛い」 気づけば止まった涙は再び流れて、颯太に無理やり抱きつく。颯太は難しい体勢なのにきちんと僕を抱きしめて、優しく頭を撫でてくれた。 「ありがとう……」 「うん。俺も、ありがとう」 僕を強くしてくれた人。僕を救ってくれた人。 颯太がいたから、僕の人生は今、こんなに素敵なものになった。 いつもそばにいてくれて、安心させてくれる。甘えさせてくれる。包み込んでくれる。 これが愛なんだって、一番好きな人なんだって、毎日、毎日、思わせてくれる。 僕は、見つけることができたよ、母さん。だからたくさんありがとうって、言ってるよ。 「……おめでとう、颯太」 「そっか、言うの忘れてた。亜樹も合格おめでとう」 僕は泣きながら笑って、颯太の唇にそっと吸い付いた。

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