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なぞって、あるいて、こぼれて1

合格してから、穏やかな日々が過ぎていった。 学校に合格の報告へ行ったり。大学の入学用の資料を集めて、準備をしたり。颯太と色々なところへ行ったり。 凛くんも、轟くんも、清水くんも、姫野くんも、松村くんも、みんな受かったことがわかって、遊びに行ったり。 受かってからはほんの一、二週間しか猶予がないから、あっという間に過ぎていった。穏やかだけれど、バタバタしてもいた。 そんな日々では、すぐに、引っ越しの日が来てしまうわけで。 「亜樹、おはよう〜」 「おはよう、颯太」 チャイムが鳴ったらドアに飛びつくように向かった。そして開ければそこには颯太。 今日は最後のデートの日。 僕は明後日、ここから旅立つ。 明日は荷造りがあるから、出かけるのは今日が最後だろうと話になった。 「よーし、まずは駅だ」 「動物園、だね」 「うん」 僕と颯太は当たり前のように手を繋いで家を出た。 今日は初めてのデートで行った動物園に最初に向かう。 あの時はまだ、柊先輩が怖かった時期。駅前で出会って、怯えて、颯太が助けてくれたっけ。 もう一年以上も前のことだ。 「結局動物園あれっきりだねぇ」 「そうだよね。でもその分いろんなとこ行ったね」 「本当に」 僕と颯太は他愛のない会話をしながら歩いていった。

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