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なぞって、あるいて、こぼれて8

「颯太といると時間がすぐ過ぎちゃう」 「本当にね」 すっかり暗くなった道を僕と颯太は並んで歩く。 ゲームセンターを出て、夕飯を食べた。あとは帰るだけ。颯太の家、かな。 後ろの方がきゅんって疼く。期待してるみたいで、恥ずかしい。でも最後なんだから、何もしないことは、ないと思う……。 最後だから、しっかり刻みつけてほしい。 「前行った場所に行っても楽しめるもんだね」 「颯太と一緒だからだよ」 「何それ、俺のこと落とそうとしてる?」 「もう落ちてるんじゃないの?」 「……あー可愛い……」 ひと気がないから手をつないで、ゆっくり、ゆっくり、歩く。心なしかいつもより歩幅が小さい。気のせいじゃないと思う。 空を見上げるといつかの日みたいな満月だ。晴れているからよく見える。 もうすぐ今日が終わってしまう。 なんて、不意に思った。 「……帰りたくないね」 気づけばそんなことを言っていて。 「うん。俺も帰りたくないよ、本当は」 そして颯太に嫌なことを言わせてしまった。 だめだな。やっぱり寂しい。 あんなに楽しかったのに、ううん、楽しかったからこそ、これからはあまり会えないという事実が、重くのしかかる。 なんで一緒にいられないんだろうとは今更思わない。夢を追うことを誇らしくも思う。 でも。 「感情まで割り切れないよね、そりゃ」 「……うん、そう、なの……」 「泣かない、泣かない」 颯太はやっぱりといった顔で僕の頭を撫でる。 泣きたくなかったけど、泣いちゃうんだろうなって薄々思っていた。それは颯太も同じみたいだ。

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