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なぞって、あるいて、こぼれて9

「やだぁ……離れたくない。颯太と一緒がいい……」 「うん」 「一緒が、いいの……」 「うん。俺も」 僕は颯太の胸に飛び込んでえぐえぐと泣く。 辛くて、寂しくて、訳がわからない。颯太を困らせるとわかっているのに、駄々をこねたくなる。こねてしまう。 強く生きよう。颯太と離れても頑張ろう。 何度も思ったはずだった。颯太に励まされて、頑張れるはずだった。 しかしいざ別れを目の前にすると、不思議なくらい涙が止まらない。 「大丈夫。いっぱい会いに行くから……いっぱい電話もするから……」 「……それでも、寂しい……今より、少ない……」 「そうだよね。仕方ないけど、寂しいね」 颯太は優しく僕の背を撫でる。その手が愛しくて、また涙が溢れる。 一度爆発してしまった僕に颯太は根気よく付き合ってくれた。 駄々をこねても返事を返してくれて、泣き出せば撫でてくれて。いっぱい優しくしてくれた。道のど真ん中で、真っ暗な中で、颯太が光だった。 「亜樹の家、行こう」 「……へ?」 やっと涙がおさまってきた僕に颯太は言った。 「本当はホテル行こうと思ってたけど、初めてを感じる場所で、うんと愛したい」 そして僕をまっすぐ見つめる。 「……はい」 僕は掠れた声で一言、答えた。

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