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最後の5

「ん……」 うっすら瞳を開ける。目の前には肌色があった。すぐに颯太だとわかって、そっと擦り寄る。 「おはよ、亜樹」 「おはよう……」 「また寝るの?」 颯太はくすくす笑うけど、ちゃんと僕を受け止めてくれる。触れ合う素肌が心地いい。 大好きだなって、思う。 一晩眠って、起きてみて。そしたら少しは気分も楽になった気がする。少しスッキリした。 颯太がたくさん愛してくれたからかもしれない。 きっと明るい太陽の元でなら、笑顔で別れられる。そんな気がするんだ。 「いまなんじ……?」 「えーと、十時くらい」 「……そっか、起きなきゃか……」 もそもそと動いて上体を起こす。かぶっていた布団が頭から落ちて、中途半端に肩にかかった。 頭を動かして窓の外を見る。確かに外の明るさは朝のそれではない。でも颯太とシたあとは大抵こんな時間に起きる。急ぐ用事もないから焦りはない。 ただ二度寝するような時間でもないだろう。 「あっ、待って亜樹」 「へ?」 立とうとしたら颯太に止められる。不意だったもんで少し声が裏返ってしまった。 寝転んでいた颯太が起き上がり、僕の肩にかかるシーツを取る。パサッと頭から被せられた。そして嬉しそうに微笑まれる。 「こうするとお嫁さんみたい」 「お嫁さん……?」 「うん。真っ白なシーツがウェディングベールみたいでさ」 颯太はシーツを両手で掴みながら鼻と鼻をつける。そのままそっと唇を啄ばまれた。 シーツの中の、小さな秘密、かな。

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