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最後の6
「亜樹のウェディングドレス見たいなぁ」
「僕、男だもん」
「今更でしょ?」
散々可愛いって言われて喜んでいたくせにって顔をされる。そう言われると、何も言えないけど。
そもそも可愛いって言葉は颯太がくれるから嬉しいだけだ。颯太が言ってくれる言葉は全部、全部宝物。
颯太が望むならウェディングドレスだって、着てもいい。隣にはタキシードの颯太がいて、色々な人に祝福されて。
男同士の僕らには、きっとありえないことだけど。でも心だけでも颯太のお嫁さんになれるなら、幸せだな。
「汝颯太は、この男渡来亜樹を妻とし、良き時も悪き時も〜」
「ははっ、上手」
「でしょ〜」
颯太が急に神父さんの真似をするからけらけら笑う。
颯太となら、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩んで、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓う……ってことができそうだ。颯太を想い、颯太のみに添うことを、誓えてしまう。
「……亜樹、大丈夫」
「……?」
一人で妄想していたら颯太は僕を抱き寄せる。壊れ物を扱うかのように、優しい抱き方だった。
大丈夫ってどういうことだろう。
そう思いつつ顎を颯太の肩に乗せる。そしてすぐに頬に違和感を覚えた。指先で触ると、濡れる。
「……泣いてる……」
「泣き虫さんだね」
「……ごめん、颯太」
「俺は全然平気だよ」
笑顔で別れられるって思ったばかりなのに。
幸福を感じると同時に涙になってしまうのかな。
これでは颯太に心配や迷惑をかけてしまう。
颯太は僕の前で気丈に振る舞ってくれているのに。
「颯太は強いね……」
「んー……強いわけじゃないよ。亜樹が俺の代わりに泣いてくれるから、寂しがってくれるから、俺は我慢できる。それだけ」
「……それが、強いんだよ」
「そうかなぁ? じゃあ亜樹のおかげだ」
「はちゃめちゃだ……」
颯太のおかしな理屈に僕はまた笑いを漏らす。
涙が出てしまっても、幸せなことには変わりない。
僕はそっと颯太の背に手を回した。
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