923 / 961

それぞれの(轟×小室)

ピンポーンとインターホンが鳴る。おれはスマホを放り出して玄関まで駆けた。でも興奮しているのがばれないよう、ゆっくりドアを開ける。 「よっ、元気だったか?」 「もち〜たかちゃんは?」 「俺も」 玄関の外にいるたかちゃんを家に招き入れる。たかちゃんは物珍しそうにおれの部屋に入った。 「ちゃんと綺麗にしてんじゃん」 「当たり前。おれ一人でも暮らせるから〜」 本当はたかちゃんが来るから頑張って掃除しただけだけど。 だってたかちゃんがおれの家に来るなら、少しはいいところを見せたい。 おれはたかちゃんをクッションのところに案内すると、キッチンに行って冷蔵庫から麦茶を出す。コップに注いでたかちゃんに差し出す。 「さんきゅ」 「ん」 おれはたかちゃんの横に座る。 「なんか不思議だよね〜」 「何が?」 「こうやってたまにしか会えないの」 大学生になってからおれとたかちゃんは週末にたまに会っていた。どちらかがどちらかの家に行ったり、待ち合わせて遊んだり。 大学生活には徐々に慣れてきたけれど、違和感はどことなくあった。 「まあ、小さい頃から馬鹿みたいにずっと一緒だったもんな」 「んね〜」 「これはこれで新鮮だな」 「だよね〜」 そう。少し寂しい。だけど同時に楽しくもあった。 お互いがお互いと離れて過ごすのは初めてで、新たな感覚に出会えている。それが楽しい。ずっと一緒だったから、少しの期間離れてみるのもありなのかもしれない。 たかちゃんのことが改めて大好きだなって思えるし。離れてから有り難みがわかるってやつ。 「……でも、大学卒業したら、一緒がいい」 ただ、離れてみるのはありだけど、ずっと離れたままは嫌だ。 おれは体育座りをして隣のたかちゃんを見る。 「当たり前。将来はまたずっと一緒だ」 「やったー」 たかちゃんはおれのことをそっと抱き寄せて、キスをしてくれた。

ともだちにシェアしよう!