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それぞれの(轟×小室)
ピンポーンとインターホンが鳴る。おれはスマホを放り出して玄関まで駆けた。でも興奮しているのがばれないよう、ゆっくりドアを開ける。
「よっ、元気だったか?」
「もち〜たかちゃんは?」
「俺も」
玄関の外にいるたかちゃんを家に招き入れる。たかちゃんは物珍しそうにおれの部屋に入った。
「ちゃんと綺麗にしてんじゃん」
「当たり前。おれ一人でも暮らせるから〜」
本当はたかちゃんが来るから頑張って掃除しただけだけど。
だってたかちゃんがおれの家に来るなら、少しはいいところを見せたい。
おれはたかちゃんをクッションのところに案内すると、キッチンに行って冷蔵庫から麦茶を出す。コップに注いでたかちゃんに差し出す。
「さんきゅ」
「ん」
おれはたかちゃんの横に座る。
「なんか不思議だよね〜」
「何が?」
「こうやってたまにしか会えないの」
大学生になってからおれとたかちゃんは週末にたまに会っていた。どちらかがどちらかの家に行ったり、待ち合わせて遊んだり。
大学生活には徐々に慣れてきたけれど、違和感はどことなくあった。
「まあ、小さい頃から馬鹿みたいにずっと一緒だったもんな」
「んね〜」
「これはこれで新鮮だな」
「だよね〜」
そう。少し寂しい。だけど同時に楽しくもあった。
お互いがお互いと離れて過ごすのは初めてで、新たな感覚に出会えている。それが楽しい。ずっと一緒だったから、少しの期間離れてみるのもありなのかもしれない。
たかちゃんのことが改めて大好きだなって思えるし。離れてから有り難みがわかるってやつ。
「……でも、大学卒業したら、一緒がいい」
ただ、離れてみるのはありだけど、ずっと離れたままは嫌だ。
おれは体育座りをして隣のたかちゃんを見る。
「当たり前。将来はまたずっと一緒だ」
「やったー」
たかちゃんはおれのことをそっと抱き寄せて、キスをしてくれた。
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