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番外編[酔いどれ柊くん①]

おれが一人分の夕食を作っている最中だった。その人物から電話がかかってきたのは。 『せいや……ちょっと待てって! あの、誠也さん?』 「……菊田、か?」 珍しく柊から電話だと思って出れば、何故か別の声がする。電話の向こう側はざわざわと騒がしい。時々柊の声が漏れ聞こえる。 『そうです~。あの今から柊家に連れて行きますね』 「どういうことだ?」 『あのー……柊、弱かったみたいで』 そういえば今日はゼミのメンバーで食事をすると言っていた。特に気にもせず返事をしたが、大学生の食事と言ったら飲みなのだろう。 あいつは真面目だから、今日が初めての日だった可能性もありうる。おれも飲ませようとしたことはなかったし、そもそもおれもそこまで飲まない。 『そしたら村本さんに電話かけたいって言い出したからこうなんですけど……すみません。責任持って連れて帰りますから』 「……いや、おれが行く」 『そう、ですよね。じゃあ待ってます。今いるのは……』 菊田から店の場所を聞く。そこまで遠くはない場所だった。行きは電車で、帰りはタクシーといったところか。 おれはすぐに家を出た。

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