931 / 961

番外編[酔いどれ柊くん②]

「あーすみません! おい、村本さん来たぞ!」 店の前に着くと菊田が柊と一緒に縁石に座っていた。周りを見ると他に人はいないようだから、帰らせたようだ。菊田のことだから先に帰してくれたのかもしれない。 「悪いな。面倒見させて」 「いや、悪ノリした俺らが悪いんで」 「せいや……か……?」 「そうだよ。村本さん」 菊田の横でずっと顔を下げていた柊がおれを見る。その顔は暗がりでもわかるほど赤い。 こんなに弱いんだな、こいつ。 「せいや……むかえ、きてくれた……」 「帰るぞ、柊」 「うん、帰る」 グッと息を飲む。 菊田の前だ。堪えろ。唇噛み締めろ。 柊は素直におれに腕を伸ばし、そのまま抱きついてくる。菊田もおれも驚いて固まる。ちなみにおれはその可愛さに悶えてもいた。 「……じゃあ、俺はこれで。柊、じゃあな」 菊田がひらひら手を振ると、柊は手を振り返す。言葉は何もなかった。動作を真似しただけなのかもしれない。 「とりあえずタクシーだな」 「……あるく」 「は? お前、んな状態で歩けっかよ」 「……やだ」 酒の入った柊はどうやら退化するようだ。普段より幾分素直で、幾分子供っぽく、わがまま。押し殺してきた感情ってやつ。 おれはため息を吐くと、柊の腕を肩に回させた。可愛い恋人に強請られては断れるわけもない。 柊を気遣いつつ、おれは歩き出す。意識は朦朧としているみたいだが、足取りはわりかししっかりしていた。 「……せいや、かっこよくて、好き……」 「……さんきゅ、おれも好きだよ」 「違う。僕の方が、好きなんだ」 「なんだそれ。比べるのかよ」 柊は歩きながらおれの肩に頭を擦り付ける。 可愛いからやめてほしい。どうせ家に帰ったらすぐ寝てしまうに決まっている。

ともだちにシェアしよう!