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番外編[颯太だからなんです①]
「わ、渡来くん!」
「へっ、え、あ……」
急に話しかけられて肩を震わせてしまう。振り返るとそこにいたのは、話したことのない男の子。クラスメイトの……佐々木くんだ。
廊下のど真ん中で直立不動の姿勢を取っている。そして佐々木くんは僕のことを緊張したように見つめてくる。
普段の様子を見る限り、僕と似たようなタイプだと思う。それなのに話しかけてくれたみたいだ。少し感動してしまう。
「えっと、な、なに……?」
「あの……渡来くん、図書館よく行く……よね?」
「うん……」
互いにもじもじしながら、相手を見たり視線をそらしたりする。
なんだろう、何が目的だろうか。僕に話しかける価値はあまりないはずだ。
「本好き……だよね?」
「えっ、うん。よく読む……」
驚いて頷くと、佐々木くんは俯いた顔を少しあげる。眼鏡の隙間からその瞳が見える。
「……『照準』が好きなんだ……おれ……」
「ほんとにっ?」
「うわっ」
思わず佐々木くんの手を取ってしまった。
佐々木くんはきっと同じ読書という趣味を持っていると、予想をつけて僕に話しかけてくれたと思う。その上で本の趣味まで合えばとタイトルを言ってくれたのだろう。
それが僕の大好きな作家さんの、大好きな作品なんて。
「僕も大好きなんだよ……!」
「えっ、そうなんだ!あ〜勇気出してよかった」
「え……?」
「本好きそうだから、ずっと話しかけたかったんだ」
「そうなんだ……」
話しかけたいは話しかけたいでも、ずっとだとは思わなかった。すごく嬉しい。新しい友達。ほくほくしてしまう。
「一人のタイミング探ってたら、廊下になっちゃったけど……」
「う、ううん!嬉しい……」
その時、廊下にチャイムが鳴り響く。昼休みの終わりを告げるものだ。
「授業始まるね」
「また話そうね」
はにかみあって同じ教室に戻った。
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