938 / 961

番外編[颯太だからなんです①]

「わ、渡来くん!」 「へっ、え、あ……」 急に話しかけられて肩を震わせてしまう。振り返るとそこにいたのは、話したことのない男の子。クラスメイトの……佐々木くんだ。 廊下のど真ん中で直立不動の姿勢を取っている。そして佐々木くんは僕のことを緊張したように見つめてくる。 普段の様子を見る限り、僕と似たようなタイプだと思う。それなのに話しかけてくれたみたいだ。少し感動してしまう。 「えっと、な、なに……?」 「あの……渡来くん、図書館よく行く……よね?」 「うん……」 互いにもじもじしながら、相手を見たり視線をそらしたりする。 なんだろう、何が目的だろうか。僕に話しかける価値はあまりないはずだ。 「本好き……だよね?」 「えっ、うん。よく読む……」 驚いて頷くと、佐々木くんは俯いた顔を少しあげる。眼鏡の隙間からその瞳が見える。 「……『照準』が好きなんだ……おれ……」 「ほんとにっ?」 「うわっ」 思わず佐々木くんの手を取ってしまった。 佐々木くんはきっと同じ読書という趣味を持っていると、予想をつけて僕に話しかけてくれたと思う。その上で本の趣味まで合えばとタイトルを言ってくれたのだろう。 それが僕の大好きな作家さんの、大好きな作品なんて。 「僕も大好きなんだよ……!」 「えっ、そうなんだ!あ〜勇気出してよかった」 「え……?」 「本好きそうだから、ずっと話しかけたかったんだ」 「そうなんだ……」 話しかけたいは話しかけたいでも、ずっとだとは思わなかった。すごく嬉しい。新しい友達。ほくほくしてしまう。 「一人のタイミング探ってたら、廊下になっちゃったけど……」 「う、ううん!嬉しい……」 その時、廊下にチャイムが鳴り響く。昼休みの終わりを告げるものだ。 「授業始まるね」 「また話そうね」 はにかみあって同じ教室に戻った。

ともだちにシェアしよう!