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番外編[遠い①]

さわさわと言う音で顔を上げる。窓の外で木々が揺れていた。葉のさざめきが外に響いている。太陽の光が揺れる葉を照らしていた。 頬杖をついてその揺れを見る。 ああ、暇だなぁ、なんて。 大講義室の一番後ろの席で、教授の声は遠い。もとより知っていることをダラダラと話すだけなので、聞く気はなかった。 必修だから取ったものの、すごくつまらない。教科書を読めばわかることばかりだ。 机に出しているスマホを手に取り、亜樹とのやりとりを見返す。 『今日は青椒肉絲作ったよ』という亜樹のメッセージにその写真。それに俺が返して終わっている。 口元には自然と笑みが浮かんだ。 こういう些細なやりとりを毎日のように繰り返す。離れてしまった分、距離を感じないように。 笑顔のままため息を零す。 次に会えるのはいつだろうか。 「……幸せ逃げるぞ」 隣に視線を向ける。 黒髪にメガネの学生。大学で知り合った友人だ。杉元くん。

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