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番外編[遠い③]

『……あっ』 電話の向こうから亜樹の驚いた声が聞こえる。俺は小さく笑って、講義室を出た。 『え、えっと、颯太……平気、なの?』 「うん。平気」 授業の邪魔にならない場所まで行って、そこにあったベンチに座る。 『でも授業じゃ……あの、間違えちゃって……』 「可愛いね」 『じゃなくて……』 「俺は平気だから。というか亜樹の声聞きたいし」 『……僕もそうだけど……』 「じゃあ話そう」 間違えて電話をかけるということは、俺とのやりとりを見返していたのだろうか。考えることは同じみたいだ。 亜樹がやりとりを読みながら笑っている様子を想像する。想像だけでも可愛くて頬が緩む。 『……颯太、元気?』 「なにそれ。元気だよ。亜樹の声聞いたらもっと元気になった」 『……も、もうっ……』 亜樹の表情が手に取るようにわかる。 亜樹は電話だと何を話せばいいか、どう話せばいいか、すぐ戸惑う。とても可愛い。 「空きコマなの?」 『うん。今日は、一、三、四』 「そっか。お昼は小室くんと?」 『うん。金曜日は一緒に食べることにしてるんだ。嬉しい』 「そうなんだね」 最近のスマホは性能がいいもので、亜樹の普段の声と変わらないものが聞こえてくる。ふわふわと可愛らしくて、嬉しいと少し高くなって、俺と話すときは少し甘くなって。 文字じゃなくて、声って、やっぱりいい。

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