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番外編[遠い④]

『颯太もお友達と食べるの?』 「食べるよ。その人面白くてさー……」 亜樹の声。愛しい声。 綺麗で、明るくて、朗らかで。 聞くたびに俺の心まで朗らかに弾んでいく。 一つ一つの声も言葉も、この瞬間も、大事にして、大切にとっておこうと、亜樹の声を聞く。 離れてからわかった価値観だ。 『そろそろお昼休みの時間?』 「うん。亜樹もじゃない?」 『……うん。また電話、する』 「うん。ありがとう」 『授業中なのにごめんね。またね』 「大丈夫。またね」 亜樹との電話はあっという間に時間が過ぎる。気づけば二限終了まで残り五分だった。 三十分くらい話していたらしい。 まだまだ話したいけれど、ここは互いのために通話を切った。 亜樹とのやりとりの中に、電話マークが増える。 一つ深呼吸をすると、俺は講義室に戻った。

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