945 / 961
番外編[遠い⑤]
静かに扉を閉めて、杉元くんの隣の席に戻る。
「長すぎだぞ」
「いやぁ、電話だとね」
すぐにお叱りの声が降ってきた。
いてもいなくても授業聞かないのは変わらないんだけどな。
「さっきのが遠距離の?」
「うん」
「……顔緩んでるから気をつけた方がいい」
「えっ、そう?」
「そこでさらに笑顔になるな」
今度は杉元くんが大きくため息を吐く。幸せが逃げた。
俺は別に恋人に関することは恥ずかしいとは思わないし、喜色を隠すつもりもないタイプ。なかなか珍しいかもしれない。だから杉元くんの反応も理解できる。
そもそもその様子を見るのが面白いからという理由もあって、隠さないんだけど。
「じゃあここで終わります」
教授の声が聞こえる。やっとなのか、もうなのか、授業は終わったようだ。
机の上を片していく。
このあとはお昼を食べて、午後の授業を受けて、家に帰る。そしたら亜樹に電話でもかけようか。
距離は遠くても、想いは近い。離れているようで、離れていない。それが俺らだ。
「どこの学食行く?」
「どうするか……」
リュックを背負って、杉元くんに声をかける。
こんな日常もきっと悪くない。
ともだちにシェアしよう!