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番外編[遠い⑤]

静かに扉を閉めて、杉元くんの隣の席に戻る。 「長すぎだぞ」 「いやぁ、電話だとね」 すぐにお叱りの声が降ってきた。 いてもいなくても授業聞かないのは変わらないんだけどな。 「さっきのが遠距離の?」 「うん」 「……顔緩んでるから気をつけた方がいい」 「えっ、そう?」 「そこでさらに笑顔になるな」 今度は杉元くんが大きくため息を吐く。幸せが逃げた。 俺は別に恋人に関することは恥ずかしいとは思わないし、喜色を隠すつもりもないタイプ。なかなか珍しいかもしれない。だから杉元くんの反応も理解できる。 そもそもその様子を見るのが面白いからという理由もあって、隠さないんだけど。 「じゃあここで終わります」 教授の声が聞こえる。やっとなのか、もうなのか、授業は終わったようだ。 机の上を片していく。 このあとはお昼を食べて、午後の授業を受けて、家に帰る。そしたら亜樹に電話でもかけようか。 距離は遠くても、想いは近い。離れているようで、離れていない。それが俺らだ。 「どこの学食行く?」 「どうするか……」 リュックを背負って、杉元くんに声をかける。 こんな日常もきっと悪くない。

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