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番外編[在りし日③]

「今日は何をするのですか?」 ぼくがそう聞くとその人は不思議そうな顔をした。けれどまたすぐに笑う。 「本日はお二人のお写真を撮るんですよ」 そう言ってその人は首からさげているカメラを持ち上げた。よく見たらその人の前には三脚もある。 「申し遅れました。わたし、写真家の高砂と申します」 「ぼくは颯太で、こちらが柊です。よろしくお願いします」 「はい。よろしくお願いいたします」 高砂さんは深々頭を下げる。だからぼくも慌てて頭を下げた。柊も下げている。 頭をあげて、あたりを見る。まだ父の姿は見えない。 「柊、写真だって。二人の写真初めてだね」 「そうだね。初めてだ」 まだ時間があると柊に話しかける。柊はニコリと笑って、爽やかに返事をした。 もう既に対大人モードだ。柊はすごい。普段はあんな感じなのに、大人の前だとすぐに笑顔になれる。これが公と私の使い分けなのだろうか。ぼくにはまだできない。 「お二人は仲が良いのですね」 「そうなんだ!」 高砂さんが楽しそうに笑う。ぼくは間髪入れずに頷いた。柊は先と同じ表情で、微笑んでいる。 「準備は整っているか」 その時、父がこの場にやってきた。後ろには母もいる。 「俊憲様。できております」 「なら始めてくれ」 「かしこまりました」 高砂さんはまた笑って、ぼくたちの方を見た。 どこに立って欲しいとか、笑ってとか、何枚撮るとか、いろいろ指示される。その間父は木陰に立って、こちらを見ていた。その一歩後ろに母も立っている。 少しだけ緊張する状況。 ぼくは柊みたいな笑顔を目指した。

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