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番外編[在りし日④]

「はい。おしまいです」 五枚ほど撮った後で高砂さんがそう言った。無意識に息を吐き出した。 「俊憲様。いかがでしょうか」 高砂さんは即座に父の元へ走り、カメラの画面を見せている。父は撮った写真を見て、そのうちの一枚に決めたみたいだ。 すると高砂さんはぼくたちの方にもやってきた。 「決定したのはこちらのお写真です。お二人とも素敵な笑顔です」 「わぁ……」 背景には豊かな緑。陽光に照らされて笑う二人の子供。その笑顔はとても自然で柔らかだ。すごく綺麗に見える。 何より隣に柊がいる。それが素敵なことに思えた。 「あの、これぼくにもくれませんか?」 欲しい。そう思った。 「……はい。構いませんよ。今度お渡ししますね」 「ありがとうございます」 高砂さんはちらりと父を見てから、すぐに了承してくれた。ぼくのお礼に高砂さんは笑って、すぐに父の元へ戻っていった。 二言三言話して、高砂さんが頭を下げる。父は労うように手を上げ、その場を去っていく。母も後につく。 どうやらこれで終わりみたいだ。 今日のお稽古まで少し時間がある。だからもう少し柊といられると思ったら、もう柊は歩き出していた。その後を追う。 「柊、二人の写真だよ」 話しかけてももういつもの柊だから返事はくれない。気にせずに隣を歩く。 いい思い出ができて気分がいい。柊の表情も少しだけ緩んでいるように見えた。 「あ!柊の分、頼むの忘れちゃったね」 夢中で忘れていた。高砂さんは気を利かせて二枚くれるだろうか。 「……いらない」 「え?」 隣から小さな声が聞こえる。 「いらない」 「どうして?せっかく二人で撮った写真なのに」 「いるわけない」 「え〜なんで?」 柊の顔を覗き込む。前髪が隠してその表情は見えない。 写真が嫌いなのだろうか。それとも自分の写ってる写真は恥ずかしいのだろうか。 「大嫌いな人間との写真なんて、いらない」 「……だいきらい……」 ころっと言葉が脳に投げ込まれる。言葉を知らない幼子のように復唱していた。 「お前のことだからね」 「柊……」 「着いて来るな」 言葉を理解している間に、柊は話を進めてしまう。最後はぴしゃりと言い放って、行ってしまった。 ぼくはその場に立ち尽くす。 そして考える。 柊はぼくのことが嫌い。 柊は九条颯太が嫌い。 そういうことだ。そういうことになる。 考えもしなかった事実は、ぼくの心を抉っていった。 ---

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