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番外編[姫と王子②]
「遅いな……」
ハンバーグを作り終えても姫野は風呂から出てこなかった。暇だからサラダも作ったが姫野は出てこない。
湯船を溜めてはいないからのぼせることはないだろう。そうすると何をしているのだろうか。
流石に心配になってきて、風呂場に向かう。
「姫野ー? 大丈夫か?」
「……えっ! 蓮くん?」
「そうだよ。何かあった? 随分遅いけど」
問いかけると一瞬の沈黙が降りてくる。
「……ふふっ」
「姫野?」
「遅かったら心配してくれるかなって思ったの」
「はぁ?」
「やっぱり蓮くん来てくれた!」
「なんだそれ。風邪引くからすぐ出ろよ」
朗らかな声で言葉を発する姫野。そんな小さな悪戯のために待つとは、不思議なやつだ。変だとも思ったが、じゃれあえるというだけで姫野には重要なのかもしれない。
一人で納得して風呂場を出た。
作った料理を並べている間に風呂場の方からドアの開く音がする。
「れーんくん!」
「うわっ」
姫野が勢いよく抱きついてくる。コップに当たりそうだった手の軌道をすんでのところで変えた。
「お風呂上がりだといい匂いするでしょ?」
「するけど危ないっつーの」
「ごめんなさぁい」
姫野は俺の首の後ろから顔を覗かせる。嬉しそうに笑う姿に、仕方ないなと思ってしまう俺はどうしようもない。だが多少甘やかしても、寧ろ甘やかすくらいがちょうどいいはずだ。
「はい、じゃあ座ってください」
「はーい」
「両手を合わせて」
「いただきまーす!」
妙に姫野が気に入ってしまった掛け声で食事を始めた。
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