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番外編[姫と王子③]
「何この人〜」
「新しく出てきたお笑い芸人だってさ」
隣に座る姫野が笑い声を漏らす。テレビの中では新人のお笑い芸人が皆の笑いを取っていた。
俺の手は姫野の腰に回されていて、時たまそのラインをなぞる。姫野は特に嫌がりもせず受け入れていて、穏やかな時間だと感じた。
そっと隣を覗きみれば、姫野が欠伸をするところだった。
「おおあくび」
「えっ、み、見ないで」
「んな恥ずかしいもんでもないって」
「うー」
「もう寝るか」
姫野を見ると、怒ったような照れたような表情をしている。俺は立ち上がって姫野に手を差し出した。姫野はそっと視線を上げて、素直に俺の手を取った。俺が引き上げると、そんな勢いでもないのに姫野は俺の胸に飛び込んでくる。
すんと小さく息を吸って、俺の腰に手を回す。緩く額を擦り付けてくる。
「幸せ……」
「……うん」
欲を抑えるためにかなり短めの返事をしてしまった。姫野は甘えと愛情表現の境が曖昧だ。故に俺は我慢させられる時も多いわけで。
「ベッド入るか?」
「ん……」
姫野は俺の手を握ってベッドに入る。俺も続けて入った。
「ね、蓮くん」
「なに?」
「腕枕で寝てもいい? 痺れちゃうからいや……?」
姫野が不安げな視線を向けてくる。けれどその手は俺の腕を無意識にさする。
「いいに決まってるよ。ほら」
腕を伸ばすと姫野は嬉しそうに頭を乗せてきた。柔らかな重みは俺にとって心地よい。
すぐに寝息を立て始めた姫野を見つめる。
「そんな不安がらなくていいよ……」
姫野は急に不安がる日がある。何が原因かは色々だ。だから俺は極力優しくしてやりたいと思っている。
だけど今日の不安が、いつもと同じ物ではないと知るのは、もう少し先のことだった。
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