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番外編[姫と王子④]

「美味しかったね」 「適当に入った店だったけどよかったな」  ポケットに突っ込んだ手を出して家のドアを開ける。二人して家に入ると、姫野が即座にドアを閉めた。 「家の中も寒いー!」 「ごねるなって、暖房つけるから」 「あ! 手を離すのはだめ!」 「わかったって」  手を繋いで一緒に俺のポケットに突っ込んでいた手。それを離そうとすると、それにも姫野はごねた。  元気なもんだと呆れつつそのまま部屋に入った。  暖房のスイッチを入れ、片手でマフラーを外す。ふわっと冷気が首元を包んで、思わず身震いをした。一人暮らしの大学生の家など、そりゃあ寒いに決まっている。雨戸さえないのだから。 「寒いし一緒に風呂入る?」  チラッと背後を振り返る。姫野の丸い目が瞬きをした。 「あ!」 「ん?」  そしてその目が見開かれる。そして自ら俺の手を離した。寒さで白くなった手が姫野の両頬に当てられる。  まるでムンクの叫びみたいだ。 「レポート! 忘れてた!」 「まじかよ、いつまで?」 「明後日! 今日そのままボクの家帰ろうと思ってたんだ!」  やばい、やばいと姫野は口を動かす。取ろうとしていたマフラーをつけ直し、ポケットから手袋を出してはめる。蒼白な顔で的確に準備する様は少しおかしかった。 「そういうわけでごめんね、蓮くん! また明日!」 「焦って転ぶなよ」 「うん!」  姫野は俺の唇にキスをする。そのまま去ろうとした姫野の腕を咄嗟に掴んだ。そして俺の方からも唇を合わせる。 「じゃあな」 「んもう! イケメン!」 「はいはい」 「ばいばい!」  今度こそ姫野は部屋を出ていく。玄関先までついていって、手を振った。姫野は脇目も振らず走っていった。まるで風だ。  姫野がレポートを余裕を持ってやらないのは珍しい。今までで初めてかもしれない。珍しいこともあるもんだ。 「なんだかなぁ」  一人になってしまった家に、俺の小さな呟きが響く。少しの寂しさは否めない。姫野が家にいないのは、本当に久しぶりかもしれない。  まあでも今回ばかりは仕方ない。  レポート頑張れよと心の中で応援して、俺は一人で風呂に入った。

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