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番外編【姫と王子⑤】
あれから姫野はレポートを無事終えたらしい。それは何よりだ。だが正直それは些細なことだ。今の状況では気に留める余裕もない。
というのも、姫野がおかしいのだ。
「姫野、帰ろうぜ」
「ごめんね!今日もレポートがあるの!」
なんて一緒に家に帰るのを拒否されたり。
「蓮くん!眠いから先に寝るね!」
「ん。おやすみー」
やたらと早く寝たり。
「蓮くん……ギュってして寝て……」
「いいよ」
不安がる周期が短かったり。
「姫野、風呂は?」
「蓮くん、先入って〜」
何かと触れ合う瞬間を避けられたり。
俺自身が避けられているわけではない。そもそも避けられているのかどうかも若干怪しい。俺がやたらと勘ぐっているだけかもしれない。
だがやはりどうにもおかしい気がする。そこそこ長い期間姫野とは一緒にいるし、あいつのことをわからないわけでもない。わかりきっているわけでもないが。
「姫野」
「どうしたの、蓮くん?」
「帰るか」
「うん。帰ろ」
姫野は少し不思議そうな顔をしながら頷いた。姫野の手を取って、一緒に俺の上着のポケットに突っ込む。姫野は抵抗しない。
こういうところはいつも通りだ。
だからもう直球勝負で聞くことにした。今日こそは逃がさない。
何も知らずニコニコ話す姫野を見ながら、俺は心の中で決意した。
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