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穴を埋める光2

コウさんの書き置きを丁寧に折りたたんでファイルにしまう。 それから自室を出た。 2DKのアパートだから自室を出ればすぐにダイニングだ。 「あ……母さん、おはよう」 「あら、亜樹。おはよう」 そこには出かける直前の母さんがいた。久しぶりに見たせいか驚いてしまう。 母さんは大抵明け方に帰って、九時ごろに家を出る。だから平日は僕の方が早く出て行くし、休日も休日で母さんが出かける時間帯は勉強中だから会わない。 今日は偶然だ。昨日の影響で、僕の起きる時間が遅れただけ。 「今日も遅くなるから戸締りよろしくね」 「うん。いってらっしゃい」 「いってきます」 忙しいのだろう。僕に目を向けないまま母さんが家を出て行く。 ドアの閉まるバタンッという音がダイニングに響いた。 幼い頃に両親が離婚してから、ずっとこんなすれ違いの生活だ。母さんは僕のために、昼も夜も働いてくれている。 普通の家族のように一緒に食事をしたり、出かけたりといった行為は久しくしていない。 だが別段寂しいとは感じなかった。 一人には、慣れている。

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