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穴を埋める光5
「亜樹? 入るよ?」
返事をする前に窓の開く音がして、カーテンが揺れ、コウさんが姿を現した。
すらっとした立ち姿。やっぱりかっこいい人だ。
「よかった。窓開いてるから何かあったのかと」
「……だ、大丈夫です。何もない、です」
僕を見た瞬間にコウさんがホッと息を吐く。やけに入って来るのが早かったのはこれが理由のようだ。
なんだか嬉しくて、思わず笑んでしまう。
「それならよかった。明日からは俺が来てから開け…………亜樹、なんか……病気?」
壁に背を預けたまま座る僕に、コウさんが近づいてきた。遠慮がちに聞くその声には心配が滲み出ている。
「あ、えと、違うんです。……た、ただのめまい。動くの辛いから、こうして待っていました」
「めまい、か……。なら昨日のは……」
「……はい。えっと、外の空気が、吸いたくて」
「今も外の方がいい?」
「……だ、大丈夫です。今日は調子、いいので」
本当は外の方がいいのだろう。きっと気分良く話せる。だけどそんな我儘を言えるわけがない。それにコウさんがいるだけで十分だ。
「んーでも、俺は外の方がいいな。窓のとこで話そう」
「あ、え、はい」
コウさんは一瞬のためらいに気づいてしまったようだ。それでもあくまで僕の思いを尊重してくれる。
申し訳なさを感じつつ、そんな優しさに胸が温かくなった。
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