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穴を埋める光6
コウさんが立ち上がって僕に手を差し出す。
……掴めということなのだろうけど、回転性だし、手を借りてもよろついてしまう。
「どうしたの? 掴んでいいよ。窓まで誘導する」
「いや、でも……その、それでも倒れちゃう……ので……」
「大丈夫。ちゃんと支えるから」
「え……わっ!」
コウさんが僕の手を引っ張る。急なことで僕の視界がくらりと回る。そのまま何かに突っ込む。
この場合、何かとは、ひとつしかないわけで。
硬い胸板に、僕が倒れ込んでもビクともしない体。僕とは全然違う頼もしい体のコウさんに、僕は、今。
カッと頬が熱くなる。めまいの存在も忘れ、体を勢いよく離した。
「あっ! その、えっと……! ご、ごめんなさい!」
「いや、俺こそ急にごめん。めまい平気?」
「あ、う、はい……だいじょぶ、です……」
羞恥で頭が埋まり、頭が回らない。コウさんを見ることができなくて、ただ必死に俯く僕。努力虚しく、コウさんはあっさり顔を覗き込んでくる。
そこからさらに顔を逸らすと、コウさんも負けじと追い返す。
からかうなんていじわるだ。そんなこと思っていても言えないけれど。
「もう歩ける?」
しばらくそのやりとりを繰り返した後、コウさんは顔を離す。微笑んで聞いてくる。僕は頷いた。もう声を出す気力はない。
コウさんは僕の手を自身の腰に回させる。身長からして僕がコウさんの肩に手を回すと体勢がきつくなってしまう。おずおずと手に力を入れ、腰を掴む。
コウさんも僕の腰に手を回す。
そして僕の様子を伺いながら、ゆっくり歩き出す。
僕はというと、頬の火照りが冷めないどころか、心臓までバクバク言い始めた。
これはきっとさっきの羞恥が残っているからだ。それかもしくはめまいで調子が悪いから。
そうやって言い聞かせて、僕は僕自身を守った。
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