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穴を埋める光7
心臓の高鳴りに翻弄されて訳のわからないまま、だが転ぶこともなく、窓のところまで辿り着いた。コウさんのあの腕が、ちゃんと支えてくれたんだろうけど、恥ずかしすぎて覚えていない。
コウさんが網戸もろとも窓を開ける。それから僕を支えつつ腰を下ろす。
空を見上げると、昨日と同じで月が見える。
そのまま息を吸ってみる。澄んだ空気が鼻腔を通り抜ける。
さぁっと夜の風が部屋の中に入り込む。
静かで、涼やかで。
やっぱり外気に触れていた方が辛くない。コウさんに感謝だ。
「そういえば亜樹っていくつ?」
「……んと……十六です」
「おっ! 俺と近いよ! 十七だもん」
「あっ、そうなんですね」
「だからさ、敬語やめない?」
「えっ……や、む、無理です……」
衝撃が二つ、僕を襲う。
一つは、コウさんの年齢。
もう一つは、コウさんの提案。
たった二つの情報なのに、脳内は大混乱してしまっている。
だってコウさんが、こんな大人びていて、気を遣える、コウさんが、僕と、一つ違いなんて。
それにタメ口とか、そんなの、無理に決まっている。できない。人と話すことだけで、精一杯なのに。
ぐるぐると考えている最中に、コウさんが顔を覗き込んでくる。驚いて固まってしまう。
「どうしてタメ口だめなの?」
「だ、だめ……というより、で、できなくて……」
「えーでも俺は亜樹がタメ口の方が嬉しいな」
「あ……」
僕の目を見つめて笑うコウさん。
……ずるい。
コウさん自身を引き合いに出されたら断れるはずもない。
それをわかっているのかどうかは定かではない。でもコウさんのことだから、そんな僕の性格もお見通しな気がする。
対人経験が豊富そうだし。
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