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穴を埋める光9
腕をどかすとやっぱりコウさんは僕を見ていて。
嬉しそうで、穏やかな笑顔が注がれている。
僕の異変に気付いたのかはわからないが、言葉の選択が優しい。変に気を遣わないで、会話を続ける。
得体の知れない怖さがほろほろと零れていく。
「ほら、コウって呼んでよ」
「えっと、あ、ん……と……」
「言いにくい? じゃあ『よろしくね、コウ』って言って? その方が言いやすいでしょ」
「あ……」
確かに文章の方が言いやすいけど、『コウ』の時点で言っておいた方が僕にとっては良かった。タメ口に呼び捨てを重ねるなんて、ハードルが高すぎる。
だけどこれは、言うまで逃れられないようだ。
僕が言わなければ、この恥ずかしい状況が解消されることもなければ、昨日逃げていた理由を知ることもできない。
「……よ、よろしく、ね……コ……」
意を決して口を開け、すると途端に意識してしまう目の前の瞳。
バクバクと心臓がうるさい。
でも言わなきゃいけない。言わなきゃ。
「……コウ…………」
ふうと息が漏れる。大きなことを成し遂げた気分だ。物凄く疲れた。
だから言う時に目を逸らしてしまったけど大目に見て欲しい。
「うん、よろしく。亜樹」
コウさ、コウは、嬉しそうな声音でそう言って、また笑った。
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