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穴を埋める光11
声音から視線を向けられているような気がして、また隣を見る。けれどコウは僕を見ていない。
その視線はじっと空に注がれている。
「あの時はびっくりしたよ。でも俺も必死でさ、無理やり家に入り込んじゃって、申し訳ないと思ってる」
それは一向に構わないけれど……。
口を挟むのは憚られて、僕はただ夜空を見つめた。
お互い不自然に前を向いたままの会話。今は会話というより、独白という感じになっているが。
「亜樹」
短く呼ばれて横を見る。今度は、目が合った。
だけどコウの瞳は寂しそうな色を湛えている。まるでもう会えないかのような……。
ああ、そうか。それが当たり前だ。
どうして僕はこれからも当然会えると思っていたのだろう。
そもそも一日で終わってもおかしくないはずだった。だけどコウが優しい人だから、わざわざ事情を説明しに来てくれた。
この話が終われば、終わり。
もう会うこともない。
「昨日はごめん。強引に抱いて。本当に、ごめん」
「……ううん、全然気にしてないから、大丈夫」
大丈夫。大丈夫。
辛いことも、涙も、我慢するのは得意だ。今まで何度も涙を笑顔に変えてきた。
今だってちゃんと笑えていると思う。
僕が駄々をこねて縋っても迷惑になるだけ。だから笑わなきゃ。
そもそもたった一日の関わりで、こんなに悲しく思うことがおかしいんだ。今日で終わるのは普通。当たり前。
だから、大丈夫。
「……あのさ、こんなこと言っていいのかわからないけど……」
ためらう必要なんてないのに。
たまたま会って、失態を犯してしまった。だから謝る。コウにとって僕はそれだけの存在だ。
大勢会う人間のうちの一人に過ぎない。軽くさよならを言って別れればいい。
「明日からも、来ていいかな?」
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